撮影におけるホワイトバランスの難しさ

商品や内観などを撮影することもありますが、以前からずっと難しさを感じているのがホワイトバランスです。個人的には、RAWからの現像時にここで大きく時間を使うことが多々ありました。

仕事で撮影をするに際し、本やサイトで情報を集めていましたが、ホワイトバランスの難しさについて書かれた情報はあまりありませんでした。素人向けであれば「照明にあわせたプリセットを選びましょう」「暖色にしたいなら色温度を操作しましょう」などで、プロ向けだとほとんど書かれていません(この理由は後述します)。

「見つからないなら自分で作る」という思いでこの記事を書きますが、残念ながら適切な解決策が提示できるわけではありません…。「ここが難しい」と書くのが精一杯という程度です。それでも何かしらのヒントになれば幸いです。

ホワイトバランス

ホワイトバランスとは、簡単にいえば白をどのように見せるかを決めて補正することです。

通常の物撮りであれば「白を白く」ですが、例えば暖かみのある照明のレストランで雰囲気まで表現するなら「白を白く」補正すると雰囲気を殺してしまいます。そのため、「何をどう表現するか」によって操作しなければならない部分です。

ホワイトバランスを整えるための道具はいろいろと存在しますので、以下にいくつかご紹介します。

グレーカード

一般的なのは「グレーカード」を用いる方法です。

デジタルカメラは設定を自動にした場合、被写体の反射率が18%であることを前提に撮影の度に補正をかけています。この設定を利用し、撮影前に反射率18%のグレーのカードを撮影してホワイトバランスをカメラに覚えさせてから撮影することで、撮影時にホワイトバランスを設定してしまいます。

ちなみに私が使っているのは「銀一(GIN-ICHI)」というメーカーの「シルクグレーカード」です。
グレーカードは他の道具に比べると安く手が出し易いので、撮影するならできるだけそろえておきたい道具です。

※amazonには銀一のものはないのですね…。

SpyderCUBE

全く一般的でない上に値段が高く人に勧められませんが、「SpyderCUBE(スパイダーキューブ)」という道具もあります。

グレーカードは撮影時にカメラの設定を追い込む時に使いますが、SpyderCUBEは撮影後の補正で役立つ道具です。立方体を斜めにして角で立たせたような形で、グレーと白に色分けされた面と、球状の鏡面部分から成り立ちます。実物の写真は後ほど出てきますので、具体的にはそちらをご覧下さい。

使い方は簡単で、撮影時にこのSpyderCUBEを入れておき、補正時にグレーバランスをとるツールでこのキューブのグレー部分を基準として利用するのです。ソフトにもよりますが、この設定を他の写真の補正時にコピーペーストすれば効率的かつ正確な(比較的に、ですが)ホワイトバランスが設定可能です。

ホワイトバランスフィルター

SpyderCUBEよりも一般的なのが「ホワイトバランスフィルター」です。

形状は様々ですが、基本的にはカメラのレンズに取り付けて撮影することで、その場の光を元にホワイトバランスを測定します。グレーカードと同様に撮影前に設定を追い込むものです。

残念ながら私はホワイトバランスフィルターを所持していませんので、性能や使い勝手はわかりません。このタイプの問題点はレンズの径によって装着できないものがあることです。他のフィルターもそうですが、レンズの種類だけ用意するイメージで、その点が購入に踏み切れなかった理由でもあります。

ホワイトバランスの難しさ

前置きが長くなりましたが、いよいよ本題に。

スタジオなど光をコントロールできるところであれば、実はそれほどホワイトバランスで悩むことはありません。照明の種類を統一して余計な光をなくすことができますから。前述しましたプロ用の情報にホワイトバランスがあまり書かれていないのはおそらくこのためです。プロがしっかり物撮りするならスタジオで撮るでしょうから。

問題なのは、私のようにロケで撮影する場合です。具体的にいえば、「蛍光灯」「電球」「外光」の3種類が入り乱れていたりします。これらの光の影響を受けた状態では、ホワイトバランスの補正は相当な難しさになります。

以下に、SpyderCUBEを使って2種類の実例でご説明します。物撮りでないものありますが、実際に私が撮影した場所で撮った写真です。

「蛍光灯」「電球」

「蛍光灯」「電球」のある環境で、モノブロックライトの照明とディフューザーを使って撮影した写真です。外光もあったのですが、そちらは段ボールなどで無理矢理壁を作って排除しました。

状況的には、「左上からモノブロックライト」「正面右から電球(間接光気味)」「正面手前から蛍光灯」という状態です。モノブロックライトとディフューザーを使ってなるべく光と制御しようとはしていました。

SpyderCUBEで左側面を基準に
SpyderCUBEで左側面を基準に
SpyderCUBEで右側面を基準に
SpyderCUBEで右側面を基準に

SpyderCUBEで左側面(モノブロックライト側)のグレーを基準に補正したものが上の写真で、右側面(電球側)のグレーを基準したのが下の写真です。

かなり微妙なのですが、上の写真の方ほうが下の写真より背景の白に黄色みがあります。つまり、左側面のグレーと右側面のグレーには違いがあるのです。

照明の色が違うので当然といえば当然なのですが、撮影時の環境づくりでこの部分の差異を消し切れていないことの照明でもあります。撮影時の追い込みが足りない場合は、このような影響が写真に如実に現れてしまいます。

「外光」「水銀灯」

次はもっと分かりやすい、学校の柔道場で撮影した写真です。左側は扉が開いていて外光が入り、それ以外は体育館と特有の2種類の照明(水銀灯だと思うのですが確認できていません)です。

SpyderCUBEで左側面を基準に
SpyderCUBEで左側面を基準に
SpyderCUBEで右側面を基準に
SpyderCUBEで右側面を基準に

先ほどと同じように、SpyderCUBEで左側面(モノブロックライト側)のグレーを基準に補正したものが上の写真で、右側面(電球側)のグレーを基準したのが下の写真です。

環境に手を加えることができませんでしたから、今回は違いが大きく出ています。

特に左側面を基準にした上の写真が顕著ですが、SpyderCUBEの右側面の白が緑っぽくなっています。外光が当たる左側面を基準に補正した場合、どれほど室内の照明の色が極端なのかがわかります。

右側面を基準にすると全体的にホワイトバランスが合っているように見えますが、SpyderCUBEの左側面が青っぽくなっています。つまり、左に行くほど青みが増してしまうということであり、例えば柔道場の床一面を撮影する場合は左と右で色が違うという状態になります。

複数の照明がある場合のホワイトバランスの難しさ

上記のようにSpyderCUBEを用いて「SpyderCUBEの部分だけのホワイトバランス」を整えることは可能です。ですが、右か左かだけでこれだけの差が出てしまいます。

「どちらを使うべきか?」という問題に見えるかもしれませんが、それでは不足です。どちらを使っても片方には影響がでてしまい、色がおかしくなるのですから。

私には最良の答えが出せないのですが、実際にやっていることは「普通に見えるように調整を追い込む」ということをしています。柔道場の写真であれば、まず左側面を基準にバランス調整し、その後青みを抑えるようにします。これは、見た目に不自然でないと思える方に一旦寄せて、そこから調整するほうがミスが少ないと考えているからです。

では、これが正解かといえば、これもまた大きな問題を抱えています。「被写体の色を正確に再現」となった場合、調整後の写真が正確であることはまず無理だからです。自分の目を頼りにしている時点で正確ではありませんし、頼る数値もないのであればそもそも色の再現は不可能なことだと思います。

通常の被写体

SpyderCUBEは見えている面が下面の黒を入れても3つしかありませんから、側面ごとにマスクして補正をすればある程度の正確さで補正が可能です。

ですが、現実的な被写体はこんなに単純な構造であることは稀です。人物や何かしらの商材であれば、複雑な構造と凹凸ある表面を持ちます。つまり「SpyderCUBE側面のように光の色が違う面」が膨大に存在します。厳密にいえば、面ですら無く点の集合です。これを1つ1つマスクして補正することが可能なのかどうか…。少なくとも私には、技術の面からもコストの面からもできません。

光の種類が複数ある環境でのホワイトバランス補正の結論

ここまでを踏まえ、撮影時に光の種類が複数ある環境でのホワイトバランス補正の個人的結論は以下の通りです。

「厳密な補正は不可能。大まかな補正が限界。」
「色を再現したいなら環境を整えるしかない。」

上記を踏まえ、ロケ撮影で物撮りを行う場合は、

「環境作りが最優先」
「適切な妥協と諦めが肝心」

という結論です。できないものはできないません。環境を作ることができなければもっとできません。加えて、画像編集ソフトの補正でどうにかしようと環境作りから逃げれば、後で泣くのは自分自身です。

結び

写真を補正する際、「もう嫌だ」「撮影をやめたい」と思うことが度々あるのですが、その理由の大半はホワイトバランスが原因です。アングルやレイアウトが満足にできているわけではありませんが、それらが未熟でもトリミングや使い方でなんとかできる場合はあります。ですが、ホワイトバランスの補正ができないと写真自体が使いものになりません。他の方はどうなのかわかりませんが、個人的には大きな問題でした。

だからこそ、照明機材を整え、グレーカードやSpyderCUBEを使い、撮影方法も工夫しています。撮影前に勝負が決まるとすら考えています。

画像編集ソフトでの補正や加工の重要性

しかしながら、画像編集ソフトで加工することも重要です。撮影時に追い込めない部分はもとより、追い込むよりも後で直した方が良い部分は存在します。

例えば鏡面素材の撮影であれば、映り込みが制御できないものを無理にどうにかするよりは、ソフトで加工して消した方が効率的で奇麗に仕上がるでしょう。
照明を用いても光量が足りない場合は、現像時に露出を上げるほうが効率的です。

「どこに、何が、いつ、どの程度必要なのか」を適宜判断する能力がもっとも重要なのかもしれません。

ちなみに、私は基本的にRAW画像を使いますので、現像ソフトを用いて補正しています。簡易であれば「View NX2」を使い、通常は「Capture NX2」を使います。

特に「CaptureNX2」は高性能なので重宝しています。発売日は古いのですが、今でもアップデートが繰り返されていてMacのMavericksでもしっかり動作します。UIも使いやすいく、いつ出るのか分からない新バージョンを待つよりは購入してしまった方がよいかもしれません。

いづれもNikonのソフトなので、カメラやレンズがNikonであれば機材の設定や情報が正確に反映されて信頼感があります。

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文中にあるディフューザーやモノブロックライトなどの説明や、それらを用いた撮影などの記事は下記のページからご覧いただけます。

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