俗に「業者」という括りで依頼者のご依頼に対して何かしらの成果物を納品する場合、難儀な問題があります。
問題と言ってもある程度の解決はそれぞれされているはずですし、現実的な影響は薄いかもしれません。
しかし、本質的には結構な深刻な問題かなとも思っています。
テーマは、経験しないと作れないのか?ということです。
[2013.5.7:「依頼者の顧客と成果物」「必ずしも求められるわけではない」の段落を追記]
[2013.5.8:「依頼者の顧客と成果物」の段落に追記]
きっかけ
先日、サイトの更新をご依頼いただいている食品を製造販売するクライアントさんの所に伺った時のことです。従業員の方から
「食べてないのに書かないで」
と言われました。実際には、お互いに勘違いあったのですぐに誤解は解けましたが…。
返答をする際に、一瞬戸惑いました。食べなければ書けない、というのは良いことなのかなと。
依頼者と業者
ご依頼の内容や状況にもよりますが、サイト制作や写真撮影の際に、そこに関わるすべてを実地で経験することはまずありません。
依頼者は専門家で、依頼される側は素人。
この構図は、基本的であり通常の関係だと思います。
これはサイト制作に限りません。コンサルタントでも、材料を納品する卸でも同様なはずです。依頼者の内部を経験している業者はほとんど居ないはずです。例外的に、本体から独立した子会社的な位置であれば内部を把握している外部の業者であると考えられるぐらいでしょうか。
つまり依頼者が探せる現実的で最善な相手とは、自分の分野や業界を熟知した業者であるといえます。ですが、これもまた正しいとは言いがたいのでは、と考えてしまいます。
個別の経験が優位
依頼者の分野を熟知した業者が最善となる場合。冒頭に私が言われた「食べないのに書かないで」という言葉にどう返答するべきなのでしょう?
この言葉は、その商品を食べているか食べていないかという点を問題にしています。分野に熟知していればよいということではなく、実際に経験してくれという要望です。
業界という範囲の括りに属する経験は軽視され、個別の商品に対する経験が重視されるならば、業者はどうするべきなのでしょう。
依頼者の求める業者
依頼をされる方から見た最善の業者とはどういうものなのかを考えてみますと、おそらく次のようになるかと思います。
自社のすべてを理解しつつ、自社に足りない専門的なスキルを提供してくれる業者
…まず、現実的には無理だと思われます。特に、できるだけ早く成果を出してくれなどという感覚で業者を探される場合には。仮に長期の案件として依頼された場合でも、会社や人間をその間動かし続けるのですからコスト的に恐ろしいことになりそうです。
次善の策は専門特化の業者
次善、といいますか現実的には最善なのだと思いますので、結局専門分野に特化した業者を探すべきなのでしょう。そのお店のすべてはわからずとも、その業種に関わり続けることで得られた知識や経験やデータなどを駆使して対応する形です。
もちろんそれだけでは足りないでしょうから、打合せやインタビューは必要になります。ですが、そのお店のすべてを理解しきる必要はありません。
なお、この場合は「食べないのに書かないで」に対する返答はこうなるはずです。
「食べなくても、材料やインタビューから書けます」
一見横柄ですが、ストレートに書くとこうなるかなと。
業者と経験
では、業者から見るとどうでしょう。依頼者の業務を経験しないとつくれませんか?相手のもとに足を運び、そこで同じように働き、依頼者の顧客に接しないとだめですか?
ここで業者=プロという視点を入れると、一定の理解が得られそうな答えが出来上がります。つまり、
プロだから経験しなくても作れる
という答えです。しかし、依頼者のために全力で!という売りを強調する業者ならば、
プロだから経験しなければ作れない
という答えもありえます。
経験した方が良いが必須ではない
経験した方がより深い内容を作れる可能性が高いでしょう。しかし、そこに対する時間を必ずさける訳ではありません。経験に要するコストを含めて仕事をやっていけるなら別かもしれませんが。
しかしながら、仮にすべて経験して作りますという場合にも問題は残ります。部外者である以上、どこまでいっても依頼者と同一になることはありませんから。
経験には限界がありますし、その限界は意外とすぐに立ちはだかるかもしれません。必要なのは、依頼者のもとで従業員として働き、責任者として判断するような経験なのでしょうから。アルバイト程度の潜り込み方では達することができないレベルです。
結局のところ、経験の有無というのは程度の差にすぎないのでしょう。であれば0か1かという視点にはあまり意味がありません。そのため、いろいろ考えたにも関わらず現時点の結論は
経験できることは経験するべき
というごく普通の地点に落ち着いてしまいました。
「食べてないのに書かないで」に対しては、「食べて書きます」で良いのだと思います。反面、食べられないものは食べていなくとも書けなければいけません。つまり、食べていなくとも魅力がアピールできるような能力が最低限のラインとなり、
経験したら最善の、しなくとも次善のものを作る
でよいのでしょう。もちろん、言うは易しで実現は楽ではありません。最善と次善の差を意識し、できるかぎり差を詰める必要があるのですから。
次善の策と経験の代替
「本を読むだけでは意味が無い」と耳にすることもあります。正論です。情報を得ただけで何かができるならどれほどよいか。
しかし、だからといって「本を読むことに意味が無い」とはなりません。特に、経験していないものを作り上げるならば。経験と同等同質のものにはなり得ませんが、「経験していなくとも価値あるものを作れる」と思っています。
食べたことがなく、また、食べられないのであれば。次善の策として、食べずともどんな味かを表現する方法を探して形にする、ということです。
依頼者の顧客と成果物
では、「依頼者の顧客(以降は顧客と記載)」の視点ではどうでしょうか?経験に基づかない情報に価値はあるのか、それとも価値などないのか。単純に想像するならば、経験に基づかないような情報には価値はないと思えますが…。
個人的には、顧客の視点では情報が経験に基づくかどうかはあまり重要な問題ではないと考えます。顧客視点での本質とは、以下の2点にあると思うからです。
- 自分の要望を満たすかどうか
- 得た情報と事実に齟齬がないかどうか
これらを満たせば、顧客は満足して情報を評価するのではないでしょうか。
例えば、情報を見てある商品を食べたいと思い、実際に食べた際に満足できたかどうかという点が重要になります。経験に基づく情報を提示していても、食べたときにがっかりされたのであればその情報はふさわしくなかったのです。
なお、経験に基づく情報が不要だということではありません。なくても問題ない場合があるということです。
顧客に視点を絞れば作れる
前述のように、その情報で顧客が自分自身の要望を満たせて満足を感じたか、が問題となります。少々詐欺のような感覚に陥りますが、「顧客に価値を売る」という事柄に関わることでしょう。情報の信頼性はもちろん重視されるでしょうが。
この場合、その情報が経験に基づいているかどうかは重要な問題ではありません。極端にいえば、
顧客に視点を絞ることで情報を構成できてしまう
からです。顧客に届き響かせることができればよいので、「経験で得られる情報」にこだわらずに「経験しなくとも得られる情報」で勝負ができます。嘘を並べるということではなくて、視点が違うのです。
必ずしも求められるわけではない
結局のところ経験は重要ではあるのですが、なくとも顧客を中心に考えて視点や切り口を工夫すれば情報を作れてしまいます。しかし、その情報を依頼者が望んでいるのか、顧客が望んでいるのかはまた別のことではないでしょうか?
時として、業者は魅力的で力ある提案を練り上げ、依頼者に力押しする場合があります。曰く、「コレは成功します」「コレは顧客に響きます」。そんな時、業者は冷静にならなければいけないのかもしれません。
依頼者のために必死で練りあげた案は、
その依頼者と顧客にとってふさわしいのか?
あるいは、本質的に依頼者や顧客のためになるのか?「できること」と「求められること」を同一視しない方がよいのではないでしょうか?
結び
クライアントさんのところで言われた言葉に端を発する記事でしたが、ちょっとまとまりが悪くてもうしわけありません。書いているといろいろな状況が浮かび、収集がつきませんでした。そのため、多少強引ですが一本の筋にのせようとした次第です。
とはいえ、結論を決めて書いている訳ではなく、テーマとしては疑問の提示でした。つまりは、「あなたならどう答えるか?」ということです。
「経験しないと作れないのか?」という問いに、どう答えますか?
蛇足
ちなみに、私はこのクライアントさんのレギュラー商品の9割ほどを食べていて、撮影もしています。商品名を言われればある程度の味の説明もできます。そのため、あの商品のあれとこの商品のこれを使っている、とわかればそれなりの精度で想像もできます。
しかし、この状態をご存知の上でも「食べてないのに書かないで」といわれます。これは生産者としては当然の反応でしょう。作った商品は全部違うのですから。ですが、この記事のように業者的には少々戸惑ってしまいました。
食べる食べないに関わらず結果が出せればいい、という結果重視は正しいと思います。結果がでないものを納品しましたでなっとくされる依頼者などいません。ですが、正しくとも依頼者と業者の関係は相当にドライになりそうだとも思います。
なぜなら、結果に至る過程の軽視は、相手(やその商品)との繋がりを希薄にしかねないからです。同様のスキルやレベルの会社が存在した場合、すぐさまその会社に切り替えられる可能性が高いでしょう。取り替えの効く部品になるか、欠かせないパートナーとなるのか。そういう点からも考えた方が良いかもしれません。
この辺りは、機会がありましたらまた別の記事で。
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