以前、クライアントさんのところでお話に出て、しばし話し込んだ内容を記事に落としこんでみようと思います。話の内容としては、結構重要な話だと認識していますので。
なお、そのクライアントさんは中小企業の社長さんでして、従業員として社員やアルバイトを抱えている立場の方です。この記事では、こういった立場の方であれば誰しも考えておられることかと思う反面、担当者レベルではなかなか難しいのかもしれない、という内容です。
「ホンダのNなんて、全然いいとはおもえないんだけどね」
クライアントさん(以降、長いのでAさん)のところに顔出しをした際に、「この前のガイアの夜明けの、HONDAのN BOXの回見た?」といわれて、それについての話になりました。
ガイアの夜明けでは、 佐藤可士和氏のデザインを中心にした内容だったかと思いますが、Aさんは以下のようにおっしゃっていました。ちなみに、Aさんは自社の包装などのデザインを専門のデザイナーに依頼してるぐらいの方で、デザイン自体に価値がないと考える方ではありません。
- 「デザインがいいとは思わない」
- 「みんながホンダの歴史なんて知らない」
- 「Nの意味もそこに込めた思いも伝わらない」
しかし、「ホンダのNなんて、全然いいとはおもえないんだけどね」という言葉の後に、ある点を高く評価していました。それはだいたい以下の通り。
- 「コンセプトやデザインに関わるストーリーを会社全体で共有していて、それが顧客との接点でにじみ出ている。」
- 「従業員が自信をもって、生き生きと説明している。」
- 「デザインは顧客へのアピールではなくて、社内に向けて大きな力を発揮している。」
つまりこのデザインは、
「外部ではなく内部に大きな影響をもたらしたデザイン」
だった、という見方です。
誰に対してのデザインか?
デザインというとエンドユーザー、つまり最終的な使用者のためのものであると真っ先に考えるのではないでしょうか?前述のN BOXにしても、もちろんそういう部分が含まれているはずです。
ですが、デザインを発注する際に「デザインの力」といいますかそういうものを理解していれば、デザインが影響をあたえる対象はもっと広げられる訳です。
今回に関して言えば、社員に対して効果があったと言えます。全社員がその商品のコンセプトを理解し、その理解に基づいたストーリにのって、適宜部分を切り出して接客を行うことで、顧客に対して強力かつ一貫したアピールができたのでしょう。車だけを売るということでなく、車にまつわる物語に共感してもらいその一員にさせる、というイメージでしょうか。
エンドユーザーに好かれるか否かは大切ですが、それ以前に社内で好かれるものであるべきなのかもしれません。商品が魅力的なら社員に熱意がなくても売れるという状況もあるでしょうが、商品が魅力的で社員も情熱をもっていればもっと売れるとも考えられます。
デザインを発注する際は、
「誰に効果があるのか」「誰に効果があってほしいのか」を明確に意識する
ほうが、より有意義な結果を得られるでしょう。
Webサイトのデザイン
デザインの発注というのはハードルがそれなりに高いかと思います。サイト制作もしかり。
一番気になるのは「依頼しても売り上げがあがるかどうか確証がない」という部分でしょうか?趣味に関わる依頼ならともかく、事業に関わるデザインであれば気にならない方はいないでしょう。
ですが、ここで前述の「誰のためのデザインか」という部分を考えて見ますと、まず何よりも依頼者であるサイトオーナーの方への影響が一番でると考えることができます。つまり、
「発注者がサイトのデザインを気に入ることにより自信をもって運営できる」
ということです。
「好み」にとらわれない
デザイン自体はそれこそいろいろな要素がありますし、サイトオーナーが気に入っても他から気に入られないことも十分に考えられます。ここで重要なのは、「好みだけで判断しない」ということです。
なお、人間ですから好みを排除することは不可能でしょうし、好みを排除することで魅力も消え失せることにもなり、好みの排除自体はお勧めしません。要素の一つとして節度を守るといった具合です。
Webサイトで例を挙げますと、フォントサイズなどが分かりやすいかと思います。フォントサイズが小さい方が格好がよく上質に見られやすく、フォントサイズが大きいと子供っぽく幼稚に見られやすい傾向にあるのが、大きな要因かと思います。
さて、好みに従って小さなフォントサイズで格好よく見えるサイトを作ったとしましょう。ところが、字が小さくて視力の弱い方は読めません。目がよくても漢字がつぶれて読めません。読み取ろうと集中して目が痛くなります。これではオーナーもユーザーもサイトで何かしらの目的をかなえることはできないでしょう。
ここまで分かりやすい状況は多くはないのですが、基本は同じです。機能を果たせないレベルで好みを優先させるのは危険なのです。逆に言えば、
機能を果たせるレベルであれば好みが優先しても良い
とも言えます。
オーナー単独でこういった判断を行い続けることは難しいと思いますので、このあたりはそれこそ社員や発注先のデザイナーと相談しながら決めていけば良いでしょう。
結び
デザインの価値というのは、様々です。売り上げへの寄与という一点においても、そこに至るための道は様々にあってどこを選ぶかでかわってきます。実際、判断は難しいですよね。
そんな時はこの記事のように、自分あるいは自社の人間が
「自信を持って商材を語れるか」
という点で考えてみてもよいかと思います。受け手側の誰かに気に入られるかのみならず、送り手側が相手を説得できる力を持てるか否かの判断は、おそらく無駄にならないでしょうから。
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